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ロシア製のベッド

「ハレルーヤ!!」
「オーイェー!ナイス!ハレルーヤ!!」
ロシア製のベッドから身を起こし、窓ガラス越しに通りを覗きおろしますと、ようやっと頓狂な声のデドコロがわかりました。
「ナイスハレルーヤ!」
「オー!イェース!!ナーイス、ソーナイッス!ハレルーヤ!!」
肌の色は極端に白く、頭髪も日を受け透き通るほど真っ白になびいているのは、北欧人か露西亜人なのでしょう。
通り全体が乳色に濁っているため、男女の判別は難しく、確かに云えることと云えば、二人の異人さんが互いに指差し合いながら先の科白を繰り返し繰り返し叫んでいるということだけです。
わたしはベッドから身を起こしました。
ロシア製とはいえ、この極端に大きなベッドは、昨年ノドピリン病で急逝した父の遺品であるので、わたしの趣味にはもちろん、部屋のオシャレな壁紙とも調和していませんでした。
ブラインドの隙間から日が漏れ入ってきます。
大きな異人さん達の嬌声がいまだ小さな通りを飛び交う中ではありましたが、わたしは部屋の扉をひき、かび臭い階段を降りました。ベッドを買い換えようと決心したのです。

先程よりちっとも勢いを落とさずに叫びつづけている一組の異国人たちは、わたしが通りへ出たのに気付くや否や、案の定!機械仕掛けの口振りで、わたしを鋭く指差し、また叫んびました!
「@@@@@、……@……!@……@@!!!」

どんな言葉が吐き出されているのか、何を云っているのか、はたまたどのような意志を伝えようとしているのか、それを聞き取ることは不可能でした。声量が小さすぎるのです。わたしは両手を左右それぞれの耳の裏に立て、道の両端から発せられてはソヨソヨと漂い消えるそのウィスパーシャウトを、全神経を集中させた聴覚ですくい取ろうと、歩みを止め腰低く構えました。
「@@@@@、……@……!@……@@!!!」

まるっきし駄目でした。わたしの構えに警戒して、さらに声量を絞ったのではないかしら?
しかしまったく収穫がなかったわけではありません。全体の響きにどこか軽蔑の色が含まれているのに気が付いたのです。
わたしはだんだん腹が立ってきたので、「悪いがね、ボクはこれからベッドを買いにいくんだ。キミ達にかまっている暇はないってことだよ!理解したかね、このアンポンタンズ!」両脇に居るそれぞれに等しく声を届かせるために真正面を向いて叫びました。するとその語尾とかぶさる様に、
「@@@@@、……@……!@……@@!!!」

まただ!懲りやしねえ!いや、懲りないのはコチラのほうかもしれない。言葉ともため息ともつかないモノに対して腹を立てるなんて、まったくばかげてる。わたしはベッドを買うためわざわざ往来まで出たんだ。
ネコの屍骸が転がってるくらいでは引き返さない程度の覚悟はきめて飛び出したんだ。
もうイヤだ!
脇目もふらず歩き出すことに成功したわたしは、ある物凄い計画をひらめきました。
「この小さな体に合ったコンパクトでモダーンなベッドを買おう。でも気に入りの一品がなかったらなんでもいいや。あまり大きくなければそれだけで結構。そうしてあの古いロシア製のベッドは部屋の窓から放り投げよう」
ひらめいた、というよりはそもそもの動機がそうであったような落ち着きでそう考えました。
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-29 11:56

先日のハッピーディスパッチ@月見ル君想フへ来ていただいた皆さん、たいへんサンキュー!
ベースはしましまパジャマパンツだし、ドラムはジャージにくくるまでの長髪、挙句の果てはボーカルのセーラー服に機関銃ならぬセーラー服にアイライン。機関銃以上の殺傷能力をもっていたのはサスガ!というほか無いですが、これらみな似合っていたから始末が悪い。
そんなハッピーディスパッチが結成された地、アーバンシティー北青山は66modernにて、来たる12月2日(木)、 
 
  稲荷式リサイタル~サヨナラ×66【ボクはキミをきっと忘れない×66】~
 
  出演/高萩裕司 、 ヨウスケYoung 、 他一名
  
が開催されます。
エントランスはサヨナラ価格の1000円。
この低価格は内容の貧弱を表すものではなく、サヨナラ度の高いことのみを意味します。
ご存知、ヨウスケYoungはハッピーディスパッチのボーカル担当、名前の由来をたずねれば、「だってまだ若いですし、Niel Youngみたいじゃないですか」と軟体動物の気味悪さで答えます。ニールヤングを意識するには語呂が悪すぎますし、だいいち彼、二ールヤングが好きかどうかも怪しいところ。詰まるところ名前なんぞドウでもいいんでしょう。「YOUSUKEX」だろうが「ヨサコイ洋輔」だろうが、「キミの瞳の数だけヨウスケ」だろうが構わないといった態度です。
兎も角、66modernの高級ソーファに身を埋め、酒をなめつつ音楽に涙を落とすのも、憎悪の鳥肌を立てるのも、この日が最後、66modernの営業もライブも今年いっぱいはあるようですが、稲荷式のライブがあるのはこれで最後、これ以上言わずとも知れますね、
某吟遊詩人の言葉を借りるならば、
「皆さん!いずれナニのほうをナニしてくれますようお願いします。」
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-25 12:12

小さな図形のメロディー

彼は退屈なバンドをたくさん知っていた。
つまらない演奏になると、耳が勝手に麻痺してきて聴くに値しないと教えてくれる。
それでもバンドの名前だけは必ず覚えようと努力した。
だから退屈なバンドの名前を挙げさせれば、一時間を与えたところで足りないであろう。
中にはライブは退屈でもその名前だけはキラキラと魅力的に昇っていくバンドもあった。
もちろんその両方が絶望的に渦を巻いているバンドもあった。
ともあれ、彼の中には数え切れないほどバンド名の記された名簿があり、それはクソバンド帳と同義であった。
彼はライブハウスのPAを仕事とし、その腕は良かった。
しかし演奏で自分を高揚させてくれるようなバンドはひとつも知らなかったし、こんな場末のしがないライブハウスではそれももっともだな、とあきらめている。
そんな環境の中、彼はどのようにしてストレスをためずにいられるかを自然に学んだ。
バンドが演奏を始める、歌う役割の人間は気持ちよさそうに目を細め、ギターを弾く人は少しずつ自分のボリュームを上げようと右手が忙しい、低音弦役の姿はスピーカーに隠れてよく見えないし、練習不足を補うぶんだけ音も小さくしてある。大小のシンバルが常に揺れているのは、ドラマーの支配欲が間違った形で噴出しているからで、右足が一定のリズムで揺れているのは、彼のいる小部屋に貼られた紙切れがブルブル震えるのとシンクロしている。
そのとき彼はバスドラムの音だけを丁寧に聴いていた。
だんだんとその突き上げるような低音を柔らかくしてみたり、カッチコッチにしてみたり、ツマミと戯れながら微妙に変化させている。
観客はもちろん演奏者にもわからない程度にカタチを変えていく。
☆型をした音がゆっくりと○を経て△になり、ときおり連続した図形が細かくだんだんと小さくなりながら尻尾を引きずるようにしてみたりもする。
彼だけが知っている彼だけの遊戯は、フロントマンが鼻息荒くマイクを客席に放りなげ、ギター担当がピックを指ではじき、見事失敗、自分の足元に落としてしまうまで続く。
いま彼の興味は、バスドラムの音でどうにかアルファベットをつくりだすことにある。
そうしてバンドの持ち時間をたっぷりつかって、演奏バンドの名前を描き出したい。
しかしまだ『O{オウ}』の字しかつくれたことがない。
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-23 09:09

お知らせ

http://www.zakurokan.net/にも友人のものを含む、コラム集がございます。どうぞご覧ください。
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-14 22:00

キャメルのコート

秋色の街道を一人のロンドン帰りが歩いています。
左手にはフィルターぎりぎりまでチビになったタバコを指先につまみ、右手にはカサカサになった革鞄をぶら下げ影を引きずりずり歩いています。
彼は待ちに待った季節を祝福するため慣れないタバコに火を点し、むせ返る喉でのみ秋を受け入れることができるのです。
影は昨日よりも長く伸び、自身のやり方でその満足をあらわしているように見えます。
革鞄の中には箱型の無愛想な機械が納めてあり、それは彼が最も大切にする「エフェクター」と呼ばれる種類の道具でした。

長く季節の訪れるのを待ち、街にエフェクトをかけにやってきたのです。

石畳はすでに途切れ、道は一歩ごとサクッサクッと軽い音のする小高い丘の頂まで届いていました。
街を広く見渡せることを確認すると、彼は赤くむき出しの土の上へ腰を下ろし、鞄を右手からひざの上へ、機械を鞄の中からひざの上へ移し、その左端に出っ張ったツマミを時計回りにソロソロとまわし始めました。
機械はだんだんと熱を発し出したようです。
耳を澄まし、その他に三つあるツマミを同じく慎重に調整し、また耳を澄まし・・・そんな彼の背後では、影も背中を丸めて指先でツマミをいじっているようでした。
そのうちにアクビ色の太陽も家々の屋根に隠れ、再び山々の間から昇り、各家庭のカレンダーが一日分めくらはじめました。
彼はただじっと、指先だけを繊細に動かし、時折耳の先が多少プルプルと震えるほかは、一晩中ピクリともしておらず、街の人々が労働のため、登校のため、泥棒のため、それぞれの理由で街道にあふれ出ると、はじめてホッと脱力したように安堵の息を大きく吐き、ドデッと大の字に寝転んだとたん、スヤスヤと寝息をたててしまいました。
街道は一色に塗りたくられていました。
男も、女も、子供も、大人も、老人も、スリも議員も、皆全員がキャメルのコートを秋風にヒラヒラさせていたのです。
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-13 12:08

11月18日(木) open 19:00 start 20:00
渋谷 青い部屋 『ミュージックサロン』
w/ 野村麻紀  廣島屋(紙芝居)、The Sharmans、ボスチーズ  
前売り・当日 ¥2500(1D含)

紋切り刀を懐に、無意識裡のアシッドをギターケースに忍ばせた京都からの刺客、野村麻紀を迎えての、個人的にはサイキックフォークロアⅡの趣。 


11月23日(祝) open 18:30 start 19:00
青山 月見ル君想フ  『空南』       
w/ Itach  JPC BAND(with 来門 from SMOGAS)  etc…(ゲストあり)
*ソロではなくHappy Dispatch(from湯川音楽研究所)として
前売り ¥2000(+1D)  当日 ¥2500(+1D)

真性ロックバンドHappy Dispachとして出演。このバンド、まずフロントマンがかっこいい。長身、細身、ボサボサ頭の三拍子そろったロックヤング、加えてその不可解な腰の動きが悲しくも官能的ですらあります。ベース嬢も近年まれに見るライオットガールで、ステージ上での静かな破天荒はアンプを伝わり低音となり、「ブリブリ」と鳴り渡るってな寸法です。とくればドラムも黙っちゃいない、プリミティヴ太鼓で鍛えた瞬発力は、たとい過剰にでかいフロントマンにその姿隠されようとも、タイトにルーズに一聴バラバラなバンドの音を支えます。そしてボク、ライブを見た友人の一言「キミはハッピーディスパッチの『パッチ』役だね」とは云い得て妙、ロックンロールバンドが当然の働きで「ロール」するのを阻止する役目、といったら誤解もありましょうが、皆さん、スケールはおろかコードすらひとつも知らなかったアート・リンゼイ卿のギクシャクが、フリージャズからボサノヴァまでをも解体、ではなくその様式を拒否していった顛末を思い起こしていただき、あとはライブを見ていただくことにしましょう。なお、一月には彼の地ニューヨークはCBGBでのライブも予定しております。


12月2日(木) open 19:00 start 20:00
北青山 66modern
w/ ヨウスケyoung etc・・・
前売り・当日 ¥1000
66modernの営業も今年いっぱいとのこと、『一人ハイテンション大会』ヨウスケyoung(Happy Dispatchのギターボーカル氏)を迎えての66modern最後の夜、「ところで青山も変わっちまったなあ」とのこと。
 

12月12日(日)  open 18:00 start 18:30
新宿 JAM  『青黄赤 vol.1』
w/ ハナリキョウコとザ・スナイパーズ サロメの唇 ドルフィンズエコー etc・・・
前売り ¥1700  当日 ¥2000

悲しいまでに純然たる懐古主義、かどうかは見たこともないのでわかりません。が、新宿JAMサイド曰く、「昭和歌謡な夜」とのこと。そのオープニングを任されました。

       予約は camagro-169@docomo.ne.jp マデ
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-13 11:27

A「いま大流行中のスペイン風邪は、いつものあの三丁目からはじまったそうだ」 
B「まったく。そろそろ対策をうって出てもいいものだがね」 
A「まずね、実際的データとして三丁目には姿見が多すぎるというのがあるんだ。一丁目と二丁目、それに五丁目にある限りの鏡を寄せ集めても、三丁目の数字にはとても歯が立たないそうだ。最近発表された、まずもって信用に足るデータだがね」 
B「あっ!」
A「エッ!」
B「やっぱり。イワン・コッチャナイ博士の論文の話か…道理で!」
A「…」 
B「キミも懲りない男だな!」
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-09 22:59

椿

ガマグチの財布を取り出そうと内ポケットをさぐると、一葉の柔らかい湿り気が指先にあたった。
掌の半分ほどもある大判の椿の花びらであった。
「やられた!!」と言葉がクチをつく間もなく、向こう三十メートルほど先の四辻にスリの三十郎がこっちを見ていた。
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-09 15:58

ポプラの二階

背骨で大きく息を吸い込むように、伸びをしました。
伸びに伴うはたらきでカカトをグッとあげると、宙吊りになった革靴のヒールが重力に従うかたちでスルスルと伸び、ついには地面に着きました。
と同時に背がグンッと高くなり、いつしかヒールは屋根を越えて成長していたのです。
地から生える二本の細いボウは絡まりもつれ、彼女の上半身もコマのように旋回しながら幹を導くように昇り続け、あっという間、ポプラの木になりました。
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-04 22:09

ポルカはひょんなことから隔週日曜日に村の老若を集めて開催される草野球に参加する運びとなった。教会裏でプレイボールするこの試合、毎週ではなく隔週の開催となっているのは、昆虫のように老い果てた教会の神父への気遣いであり、また昆虫への同情であり、「日曜日の金属音は鐘の音でじゅうぶんだ」という鉄鋼工場勤務作業員への金属バット的見地からの配慮であるのだが、最も重要なワケがその裏に隠れている。つまり隔週であれば、神父(これが相当の堅物である)から「ヤカマシイ!」との注意を受けたところで翌週は休んで反省の色を見せておき、そのまた翌週は再び何食わぬ顔でヤアヤア!と球をほおって、撃つ、走る、守る。要は懲りずにまた草野球をする。そしてまた注意を受ける、翌週休む、また投げる、撃つ、走る。注意を受ける。翌週休む………と、神父の激しい物忘れ(これが相当の進行である)が完治しない限りにおいてエターナルループが完成し、理屈上では村民は永遠に、年に二四回の草野球を楽しめるという仕掛けになっているのである。

ポルカは二週間分の昼食を我慢して、村のチームのベースボールキャップを買うことに決めた。受注生産であるため、さらに二週間待った。そのキャップは、限りなく紫に近い紺地へ村の頭文字であるエスのアルファベットが黄色の糸で縫い付けられた、スタンダードなベースボールキャップであった。常日頃、特に昼食の必要性を感じていなかった彼は、これならカーボン製の金属バットだって遠い夢ではないぞ、とキャップのツバをチョコンとはじいた。

帽子をかむり始めた彼は、帽子をかむり続けた。
一日中、どんなときでも帽子をとることはなかった。少なくとも、人目につくところでは。

ポルカの隣に住むサテローナ夫人は、そんな彼をいぶかしげに見守り、怪しんだ。彼女の深緑色の好奇心は、彼女自身に有閑婦人を許さなかった。
必ずや帽子の縁と頭頂部の接する部分にカラクリがあるに違いないと考え、それからというもの、入浴後の習慣としてニ十年間続けてきたクロスワードパズルをパタリと止め、毎晩毎晩そのカラクリの解明に想像を逞しくした。

ポルカは、特に帽子が似合っているからと自惚れるほどナルシスな訳ではなく、また念願のベースボールキャップが手に入ったと浮かれはしゃぐほど無邪気でもなかった。彼は帽子に違和感をすら感じていたのである。しかし彼はかむるのを止めなかった。

ポルカと帽子に関する妙な噂話も止まなかった。そのほとんどはサテローナ夫人が毎晩の研究発表を兼ねて、近隣の夫人グループ中心にまことしやかにばら撒いていたものである。
彼はそれでも帽子を被り続け、遂には少年と中年の間を行き来するようになった。おわかりだろうか?腕白で向こう見ずなベースボールキャップを初々しく頭上に戴くこともあれば、くたびれ深い皺の刻まれたベースボールキャップが皮膚の一部であるかのようにはりついている場合もあり、キャップが二面蒼の如くポルカの表情を変えていった。

そんなポルカを理解しようとの村民たちの努力は、一週間ほど西の空を虚しく暮れさせただけで、誰もがみな、もう訳がわからなくなった。
神父だけは訳知り顔で「遠い日の追憶にふけることはノープロブレムである」を村のスローガンに決めた。
彼は相変わらず居心地の悪い中、少年と中年との間を行き来していたが、それはもちろん彼と帽子との関係が少年性に帰結するするでもなく、中年性に着陸するでもなく、その間を行き来していたからである。それでも毎日は東の空から始まった。

サテローナ夫人は、入浴後の紅茶を上品に啜りながら、研究対象たる少年がベースボールキャップをはじめて被った時のことを思い出していた。
彼女は当時、クロスワードパズルを解きながら次の様に思ったのである。
「何だか子供のようで、おっさんのようでもある、不思議な印象ね。人間と帽子とは、中世の頃から特別な関係をもっていたことを考え合わせると、なにかにおうわ。そうね、確かだわ。あの関係には秘密がある」そうして彼女はポルカとその帽子とに注意し出したのである。
そんな当時の思い出を紅茶の中でひとしきりかき混ぜたあと、サテローナ夫人はふと、最初の最初から自分の推理がまったく前に進んでいないことに思い当たった。
「なんてこと。あらまあ。ワタシとしたことが一歩も前へ進んでいないわ。長きに渡って暇を知らなかったこの洞察も、これまでかしら。いいえ、そんな筈はない。でも…、皆目見当がつかないわ…………。もう……、脱帽ね………。」
色とりどりの造花にゴテゴテと飾られ、大きな庇が楕円形にゆったりとひろがる古めかしい婦人帽を慣れない手つきで曖昧に外し、膝の上に置いた。
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by huck-a-gelmondo | 2004-11-02 20:26