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監督、下北沢に惨敗す。

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日暮里から電車を乗り継ぎ、下北沢タウンに来た。
噂では道行く人全員がギターケースを背負い、全員が曽我部ケイイチを崇めているという。
道行く幼心の全員がベースボールキャップを被る日暮里とは大違いだ。

監督は下北沢に馴染んだことは一度もなかった。
第一ギターケースを忌み嫌っていたし、曽我部ケーイチもよくわからなかった。「ベイビーブルー」は別にして。

監督は勝手知ったるベトナム風の小さな喫茶店に滑り込んだ。
一目散にセカンドベースを目指すランナーさながら。
ベースを踏んでいない走者は、素っぱだかにされた戦士。
下北沢タウンを迷い子のように歩く監督と同じである。

喫茶店でベトナムコーヒーを注文し、監督は白紙のスコアブックを広げる。
涙が出るほど充実したひとときである。

…左打ちの一番打者はとびきりの選球眼でカウントを埋め、挙げ句サード前に転がす。
敵軍の内野は愚かしいまでにバタつく。
もちろん彼は俊足であるから、セーフである。
続く二番打者は当然バントの名手にして陸上競技あがりだから、走者を二塁に送るばかりか一瞬の差で一塁に生き残る。
セーフティーバントの華麗さよ!…

監督は興奮のあまり放屁をする。
いや、正確には漏れた。
ゲームセットを告げるサイレンのように高らかに。

足を組んでいたために肛門はイビツに狭まり、トランペットの構造で高鳴った。
監督の空想も萎みきり、12席ほどの狭い店内は沈黙に閉ざされる。
独りインテリア雑誌に耽っていた年若き女性客は席をたつ。
さっきからしきりに水を注ぎにきたウェイトレスも、カウンターの奥に避難したように思える。

監督は椅子を引き、革靴を床に擦りつけ、咳払いをするが、似たような音は出ない。
それほどまでに、高らかに澄み渡った放屁の響きであった。

監督は今日も下北沢に惨敗した。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-25 22:13

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涼しい夜風だ。

監督は日比谷公園が嫌いではなかった。

きりたったビルの谷間、矩形の人工庭園。
サラリーマン時代はよくサボりに来たものだ。
8月も終わりになると、省エネルックが少し肌寒かったっけ。

それでもビチョ濡れの噴水を眺めているのが好きだった。
きりたったビルの谷間に咲く百合。
時を忘れ眺め込んでいるうちに、しばしばオシッコが我慢できなくなったものだ。

日比谷公園にくるのは久しぶりだった。
噴水に会うのも久しぶりだったが、奥になにやら巨大な白テントが張っている。
なにやらオーロラビジョンのようなものも見える。
発光するまんじゅうのバケモノのようなものもみえる。夜間の道路工事に見られるアレだ。

そして人、人、人。頭、頭、頭。

ナイターゲームのレフトスタンド。
外野席の小市民的盛り上がり。

ビール売り場には往年のビッグサンダーマウンテンばりの行列、アサヒスーパードライが中ジョッキで売り捌かれる。

ビールを売る手に芝生の匂い、空のジョッキ。
噴水も泡立っていた。

この行列は、草野球芋けんぴに殺到する長蛇ではない。
そこのところは監督にもよくわかっていた。

ドイツソーセージや鮭のチャンチャン焼き、ハム焼きなどを売るテントもあった。
監督は秋刀魚の塩焼きをツマミに買った。
しかしビールの行列へ並ぶ気にはなれなかった。

赤ら顔のほとんどはスーツを着込み、ベースボールキャップを被る者など居ない。
それに全員にわかサッカーファンの面構えだ。

秋刀魚の骨と汚れた割箸。
ゴミを分別し、監督は祭りから去る。
噴水広場以外の公園は、祭りの馬鹿騒ぎ分だけよりいっそう暗くひっそりしている。

ベンチの影や植え込みの奥にポツリポツリと公園住民らしき人間の影。

ああ確かに!みんながみんなベースボールキャップ!
それもハードダイ加工済みの!

なるほど彼等はみんな外野手だ。
都市という名のスタジアムをワイルドに生き抜く補欠野手たちよ!
ベンチはすでに、じゅうぶんあたたまっている!

監督はベースボールキャップに誇りを感じた。
都会人のヘルメットであると。

しかし監督は、今日もキャッチボールの相手を見つけられなかった。
監督は今晩もキャッチボールの相手を見つけられなかった。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-19 16:05

あな八百新

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八百新さんのイメージカラーは見ての通り。
赤パプリカ、黄パプリカ、ピーマンの略だ。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-18 01:52

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監督の腹時計は正午の鐘を鳴らす。
しかしそれも朝食をぬいたたためだった。
時計の針は17時の閉園時刻に近づいていた。

監督は一番高いところに居た。
見渡す限りが支配下にあるようだった。

相変わらず、アニマル達も人間たちも同じソバカス大で、その区別はなかった。

観覧車はアンニュイの曲線を描きながら下降していく。
高度が下がるにつれて、煙草を吸いたいと思ったが禁煙だった。
監督は個室に支配されていた。

地上に降り立つ。
6分前には支配下にあったさまざまが、ソバカスもあらわに迫ってくる。
監督はベースボールキャップを目深にして、サンデーアフタヌーンの倦怠から退散する。

監督は、今日もキャッチボールの相手を見つけられなかった。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-17 21:43

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眼下にはしどけなく横たわる「レジーナ」が眺められた。
ついさっき乗りこなしたやつである。
女王のうなだれきった全身を俯瞰すると、さっきのスピード感がフラッシュバックしてくる…

木造のローラーコースターは初めての体験だった。
なんと一番前の席に座ることができた。
監督は支持通りシートベルトを締め、安全レバーをおろしたが、両手はどこも握らなかった。
あえて両手はお留守にしていた。
自分を試してみたかったからだ。

ローラーコースターはゆっくりと牛歩作戦のやり方で傾斜をのぼっていく。
やっぱりチェーンは金属的なキリキリ音をたて、子供たち(と監督)を不安にさせた。

急降下(フォーク)!カーブ!急降下(フォーク)!急上昇!カーブ!カーブ!シュート!…

監督は声もあげられなかった。
唸りをあげながら急降下するコースターの行く先に、滑り止め(ロジンバック)をぶちまけたかった。
いつしか監督の両手は、ランドセルを買ってもらったばかりのピカピカの一年生さながら、両肩の安全レバーをガッチリ掴んでいた。
ベースボールキャップは股のあいだで汗ばみ、グッショリしていた。
コースターの発車前、係員に「お帽子のほうは危険ですのでお外しください」
そう注意を受け、慌てて脱帽し股に挟み込んだのを監督は思い出した。

監督のおさまる観覧車は12時を告げた。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-16 21:04

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観覧車はノスタルジックなイメージを掻きまわす。

おお、観覧車!
優雅で気だるい、乗り物チケット三枚分の個室よ!
まぶしい午後を支配するアンニュイそのものよ!
恋人たちの治外法権、孤独な散歩者の夢想そのものよ!
赤ペンキもささくれだった火の車そのものよ!
つまりは経営不振そのものよ!

こうして子供たち(と監督)の夢を大空に回転させている大車輪も、いつかは解体の運命にあるだろう。

観覧車がなくなった後のポッカリとした空を思うと、

凧(いかのぼり) きのふの空の 有りどころ

ヨサ・ブソンの句が思い出され、監督はそんな自分の連想に満足した。

高いところから見下ろせば、キャッチボールの相手も見つけ易いだろうと簡単に考えていたが、観覧車の個室から見える地上はあまりに遠かった。
人やアニマル達はゴマ粒くらいにしか確認できなくなっていた。

ウルトラマンの目線ってばきっとこんなに高いんだ!
監督はさっきの着ぐるみウルトラ戦士たちを思い出した。
彼らは舞台袖のお姉さんと背丈が同じだった。

ゆったりした回想を終えると、監督のベースボールキャップは少し膨張した。
高山でポテチ袋がパンパンになるように。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-16 03:34

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ホワイトタイガーは人気者だった。
家族連れはみんなつま先だちでのぞきこんでいる。

ウルトラショーを後にした監督も、人だかりに突入した。

白虎は大きかった。
落ち着きがなく、檻の中をせわしなく動きまわっていた。
目は真ん丸で優しかった。
胴体の一部は茶色に汚れていた。
申し分なかった。

ホワイトタイガーとキャッチボールがしたい。
監督はそのキモチを強くした。

白虎は身体がデカイぶん、肉球もデカかった。

これならグローブも要らないかも知れない。
監督は想像をたくましくした。

しかし虎もピューマも檻の中にいた。
ペンキの看板には「柵に近寄らないでください」と注意がある。
監督は愕然とした。

ウルトラ戦士なら檻のひとつやふたつなんて屁でもないだろう。
でも監督は自分で思っている以上に非力だった。
ギターを持って来なかったことを後悔した。

眩しく汗ばんだ空を見上げれば、観覧車が悠々と、何年も前からまわっていた。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-15 13:20

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キッズたちの興奮は止むところを知らなかった。
舞台裾のお姉さんもいまや、白眼をむかんばかりに叫んでいた。
「ガンバレ!ガンバレ!」
すったもんだあって、正義のウルトラマンは自分の分身のような偽ウルトラマンと戦っていた。
偽ウルトラマンは身体の一部分が黒く塗られていた。
ジキルとハイドのようなものだろう。
「偽モンの悪い感じがよくでている」監督は感心した。

すったもんだあって、ウルトラマン(本物)はボコボコにされ舞台から引っ込むと、金色になって帰ってきた。
スーパーサイヤ人のようなものだろう。
しかしゴールドというよりは、セミの脱け殻に近い色だ。

金箔ウルトラマンは強かった。
そうして最後の鉄拳、アッパーカットをキメた瞬間!
カメラを構えていた監督は撮影に成功した。

このあとスペシウム光線でトドメがさされる。

派手に倒れるブラックウルトラマン。
弾ける火薬!
鮮血色のキラキラテープも破裂する!

監督は、ウルトラマンとキャッチボールがしたいと思った。
しかしウルトラマンはベースボールキャップを被れない。
ウルトラ一族は、生まれながらにして、すでに赤白帽子をウルトラマン被りしているからだ。
監督のベースボールキャップは茄子のように冷えていた。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-15 00:21

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水上の木造ローラーコースター「レジーナ」のほかに、同じく水上を滑らかにうねる新型ローラーコースター「カワセミ」も控えていたが、監督はアニマルゾーンへ向かった。

しかし遊園地ゾーンのおしまいには屋根つきの舞台があり、ヒーローショーが盛り上がっていた。

監督は会場へ急いだ。
キッズたちの怒号がきこえた。
「ウルトラヒーロースペシャルショー」とある。
監督はスカウトマンの視線で観戦することにした。

途中からなのでなにやらよくわからないが、ウルトラ戦士と怪獣が戦っている。
動きや技はプロレスと一緒だった。
舞台の裾ではお姉さんがキッズたちをアジテートしている。
「ガンバレ!ガンバレ!」
キッズたちも声を限りにウルトラ戦士を応援する。

このキッズたち全員のアタマへ順々に、ベースボールキャップを載せていきたい。
そうして全員がハムスターズを応援してくれたのならどんなに素敵だろう、監督は夢想した。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-14 23:47

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東武動物公園は、動物園と遊園地がドッキングしているのがウリだ。

ゲートを入ると、釣りボリや池が我々を迎え、まずは遊園地ゾーンが広がる。
その奥にアニマルゾーンがつながっていて、白虎やピューマがいるという。

しかし監督はローラーコースターが好きだった。
水上を滑走する木造コースター、その名も「レジーナ」。
イタリア語で「女王」の意である。

監督は乗りたいと思った。
乗りこなしてやりたい、とすら思った。

木造コースターの骨格は全体をマユのように美しくまとめあげていて、その中にレールが曲線を描きながら入り組んでいる。

監督は乗り物チケットを千円分購入し、列に並んだ。
背の低い列が長くのびていた。
ニ十分は待った。屋根はない。
照りつける太陽は、水平に保たれた帽子のヒサシをジリジリ焦がした。
ベースボールキャップは炎上寸前、監督はジリジリした。
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by huck-a-gelmondo | 2008-09-14 23:23