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新政権について、妹よ。

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前略。
彼とはうまくいっていますか?
正直、彼の服装や顔つき、立ち振る舞いに至るまで、なにひとつとして兄さんの気に障らないものはありません。
眼の回るような色のスカーフだとか、細く刈り込まれた眉毛であるとか、ズボンの前ポッケへ窮屈そうに両手を入れて歩くさまであるとか、ああいう類いは自己愛の最も卑しいカタチであり、表出です。
地球環境について受け売りの知識を撒き散らしているなんて言語道断、男なら腹を裂いて大地に鉄分を垂らし、花を咲かせるくらいでないといけません。
実を言うと、煙草を吸っているのもNGですが、そこは大目に見ています。ただ、お前に悪影響がないことを祈るばかりです。
いきなりの悪罵に驚いたかもしれませんが、兄さんが留学していたアメリカ国では、最も主張したいことをいの一番に言ってしまうところがあるのです。リンカーンに免じて、悪しからず。

閑話休題。先日の代表選の結果を新聞で読み、兄さんは驚いてしまいました。
なるほど下北沢を中心に彼が絶大なる支持を集めていたことは知っていましたが、まさか首相にのぼりつめるまでとはいささかも知らなかったからです。
お前が同棲している笹塚からも下北沢は近いはずです。以前くれた手紙にも、下北沢の古着屋の店員と仲良しになった旨をうれしそうに知らせてくれましたね。
政治を掬いとろうという意志もないまま、お上に唾を吐きつけるようなお前たち若者の間にも、選出の噂はあったのでしょうか?
ともあれ、今回の総辞職からの一連の動きを知れば、下北沢から歓喜の喝采が聞こえてくるようです。

さて、新しい政府はいったい何をしてくれるでしょうか?
お前も常日頃から気にかかっているであろう原発問題については、まだ何の新しい表明もなされていないようですが。
聞くところによると、新首相はもともとミュージシャンで、その後はレーベルも運営し、直営のカフェまで経営しているということです。
お前の恋人も若者向きの音楽が好きだったはずです。もしかしたら何か縁があったりするのでしょうか?

まさか官房長官に任命されたりはしませんよね。いいえ、これは悪い冗談です。
しかし、あんなに幼かったお前とかき氷やパスタの話題だけでなく、こうして政治の話ができるだなんて嘘みたいですが、これらは他人事で済まされない一事なのは間違いないのです。
父さんも喜んでいることでしょう。
最後に、身体にはくれぐれも気をつけてください。
リフレクソロジーの仕事も、お前にとてもあっていると思います。今度、兄さんの反射区も刺激してください。それでは、さようなら。

追伸
昨晩、新首相がやっていたというバンドのCDをツタヤでまとめて借りてきました。
さすがにすべて借りられているかなと思いましたが、そんなことはありませんでした。
やはり国民の政治離れが進んでいるのでしょうか?だとしたら憂うべきことです。
もっとも、兄さんの好きなキングクリムゾンとは似ても似つかない、初夜のピロートークのような音楽でしたが、強いて言えば「24時」というアルバムが好みでした。
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-31 23:15

頓珍漢

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【えげつない】(もと関西方言)人情味や同情心に欠けている。あくどい。露骨でいやらしい。

【便乗】他人の便を利用して、ついでに相乗りすること。転じて、機会に乗じてうまいことをすること。
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-30 00:08

イロニー

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キャッチボールをしてしまったとしたらその瞬間に泡と消えてしまうもの
言葉にしてしまうと台無しになってしまう或る消息であり
存在と不在のあわいに在るはずのフェティシズムであり
ネクストバッターズサークルの内側に充満する滑らない空気であり
ワンルームに置いてけぼりにされた残り香であり
右翼手のグラブを重くするぬめった汗であり
恋人たちの距離を満たしている物言わぬ液体であり
とびきり凄惨なデッドボールに沸くスタンドのマタドール達であり
不祥事をほのめかす夜更けの商店街であり
マウンドに群がる避難民の勇ましい凱歌であり
高圧電線に引っかかったストッキングのおかしみであり
四割打者の尻ポケットに隠されたカード型電卓であり
入道雲をシネスコサイズに映すプールへ飛び込むキャプテンであり
応援メガホンに付いてしまったルージュの伝言であり
真っ新なワイシャツと鼻血のアバンチュールであり
赤いポストに放り込まれたぺしゃんこの手首であり
タブロイド判をひろげるロイド眼鏡のアンドロイドであり
宇宙間でエンコしたリリーフカーであり
ベースボールキャップに畳み込まれた郷愁であり
念のためもういちど言うと
言葉にしてしまえば台無しになってしまう或る消息である
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-24 23:22

独善的な共犯関係

銀座線がはいってきた。轟轟いっている。
また来てしまったよ。仕事も早々に引き上げて、このぼくだけのサンクチュアリに駆けつけてきた。
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ああ、男と女。ロングとショート。RCAピン、オスメス。
こうして性別もヘアースタイルもまったく違うのにどうして彼女はぼくの気持ちを代弁できるの?
等身大の歌、足下から伸びる影。まったく浮ついていない。ぼくのハートは居場所を見つけたひな鳥のように、やっと鳴きやむことができるの。
今日もすごくいい。感情の襞という襞が柔らかいビロードになっていく。先週よりも少し高音の伸びがでてきているよ。
シュークリームの差し入れはいつ渡そうか。もし甘いものが好きじゃなかったら、彼女の目の前でうまそうに、ほんとよりうまそうに食べてやろう。
もちろん今日もCDを買って帰るだろう。いや別に同僚にあげるわけじゃない。誰もこの気持ちなんかわかりっこないし、わかってほしくもない。
冷蔵庫へいれておく。ときどき取り出しては酸化することのない思いを吸い上げるの。また戻す。
おれだけの歌、おれだけのポエム、おれだけのロングヘアー、おれだけの感情出力装置、おれだけの聖域。
歌っているとき、彼女は決して目を合わせてこない。ぼくは目をつむっているけどそれがわかる。視線がかち合えば消えてしまうのも知っている、お互いに。
いまこのときだけ、ぼくには雑音とそれ以外の区別がつく。普段のぼくには無理だ。世界のすべてが耳障りなんだから。
あ、少し歌詞をとちったね。それは雑音。ぼくは目を開けて消えてしまいたくなる。
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-23 23:05

渋谷小景

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渋谷109麓のヤマンバ広場では、リポビタンDの販促イベントが活況を呈していた。
脚は手元の的をめがけて小槌を振りかぶると、キャンペーンガールがファイトー!いっぱーつ!と合いの手を入れる。
おかげで客は潜在能力をフルに顕在させたチカラを発揮する。
的はめいいっぱい打たれ、まわっていたスロットはとぼけながらゆっくり止まる。
いろんな物が当たるらしいが、ほとんどの客は残念賞のドリンクを一気飲みして胸を張ったまま渋谷の雑踏へ紛れていくのだ。
「ティーシャツが当たったところでせいぜいパジャマになるだけだしね」
「そうそう。かえっておジャマになるよそんなの。パジャマにまでファイトを一発してたらそうそう寝付けやしない」

斜向かいに立つアディダスの路面店は、小雨のためか客の姿はまばらだ。
蛍光灯の下で、勝利の三本線が雨筋に負けじと斜めに降りしきっている。
賑やかな色のセール棚を冷やかしていると、月桂樹の旧ロゴマークを思わせる大きな顔で女店員が近づいてくる。
「これは最軽量のスニーカーです。ほら、ソールも柔軟性に富んでいまして。こうして簡単に曲がってしまうんです。いまセールなので半額ですよ」
力自慢が鉄パイプにするように、胸元の両手でスニーカーをグニャリと曲げてみせるのだ。
へえ!と感嘆しながら別のスニーカーに視線を移して軽く触れてみると、
「こちらはデザイン上の関係でソール表面がプラスティック素材で覆われていますが、やはりこうして・・・」
とまたも軽々と折り曲げてみせるのだ。
試しに底の厚い革製のスニーカーに熱い視線を注いでみる。そっと手を伸ばすと、いちど微妙な位置まで離れていた店員は、ホップステップで寄ってきた。
「こちらはカラーヴァリエーションが豊富でして、内側へ傾きやすい膝の動きを矯正する働きのある、バネのようなものがソールに埋め込まれております」
手元をひっくり返し、虫の腹のような靴底を指で示しながら一息で解説すると、
「はい。ソールはこ、こうして簡単に曲がりますよ」
しかし、胸元でチカラを込める彼女の唇はかすかに歪んでいるのだ。
決して折れ曲がることのなかったソールは、むしろアディダスの絶対品質を保証しているようで、好ましく思われたのだった。
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-21 23:23

悪癖

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「かおりー、あとでちゃんとコロコロやっておくのよー」
「うるせーなあ、いまやるとこー」
「その食べ方、ほんっと悪い癖」
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-21 14:49

面接

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はいどうぞー、んーじょうずーじょうずー、わあーいいなあ!そうねー、ぐるぐる回ってるねえ-、おっブーブーだ、ブーブーいいながらホラッあそこー、ちっちゃく見えるよー。んー?よしよしどしたのー?そうー、ドンドンってね。ほらっダメでしょこれは汚いんだから、だからそれ出さないでって、もー。あれ眠いかなあ?ネムネムなってきたねえ、よしよしこわくないよー、こうしてね、ギュッて。バアー、こわかったあ?どしたの、わかった。アーンしてみよっかあ、ちがうよう、ぺろぺろじゃなくって、パックンって!あれー?おやあ?なんかおいしいかもだねー。オイチーって、ダメっ!これはいたいイタイよー、ほら座るんでしょ。おいし-するときは座れっていってるよねえ、ん?お空みてるのー?ぐるぐるしてるねー、なんだろ、クマさんかなあ。ネコさんかなあ、ぷかぷか気持ちよさそねー、あれえ?ネムネムなってきたねー、じゃあよしっ、クック脱ごうかあ、そうそう、ほら右のあんよも出して、ほら出さないと脱げないでしょ、だから右足も出してって言ってるじゃん!んーんー、よしっエラーい、えらいねー出来た-、合格!はい、次の人-。
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-20 18:53

アンパイア


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タンマタンマ、ちょっと待ってくださいよう、えー?まあ、そうっすよ。ええ。
ああなるほど、まあ確かにそうですよね。
うんうん、果報は寝て待てって言いますしね、アハハ!
てゆーかそれ寝相悪すぎだし、はい。
ああ、うんうん、はい、ええええ、ナイアガラの滝と巨大ダムの違いみたいな、うんそれすげえわかります。
でもそれ言うなら富士山頂でアポロ食べるって言うか、え?アポロってあれですよ、チョコ知りません?ちっちゃいヤツ、イチゴフレーバーの。
世代じゃないのかなあ、はい?ああ。もちろん知ってますよ、うちは兄貴いるんで。
あれですよね、鬼のお面みたいな上にシナモンスティック刺したような、はいはい、うちのオヤジ床屋やってたんで、いっつもありましたもん。食卓に。
あ?え?まじで?言うなー、さすがだなー、そうそう。
たぶん絶対そうなんスよねー、ミロのヴィーナスに手錠はめようとするのと一緒で、ナクない?的な?
はい、ああききますききます、すんません。
うーん、ええええ、そうっすよねー、逆にだるいっすよ、マジで。広末とラブホ行っても寝ちゃう的な?果報は寝て待てみたいな。ハハハ!
ん?はいはい、あー、うん、完全、はいはい、マジで?世間狭ッ!よく言いますよ-、え?なんすか?スレイヤーっすか?ああクレイダーマンのほうね、リチャードの。逆イっちゃってるし。
アハハ!あ、はい。そうっすね、もういい時間っすね、じゃあ代走、柏原で。
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-19 06:22

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世は高齢化社会、ひとりぼっちの夜を思いだし、涙がこぼれないように、上を向いて歩いたのもはや一昔。
上を向いて歩きましょう、足下にご注意ください、の時代となった。
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-18 10:32

健康志向

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嫁はまだ寝ている。
起こさなくて済むように、こうして昨晩のうちからシャツ、短パン、キャップ、靴下をナイキの袋にまとめ、玄関に準備しておいた。
冷蔵庫にブルーのウィダーインも冷やしてあるし、アームバンドに装着されたアイポッドもフルチャージ。
嫁の深い寝顔に満足しながら、そうっと寝床を抜け出し十秒チャージ、三分後には朝の淀みない大気を呼吸している。
先週からふくらはぎが少々張っているけど、走り出せばやわらいでくるだろう。
遠くにカラスの声が聞こえる。早起きご苦労さま、とでも言ってくれているのかしら。
すると新聞配達の排気音が断続的に聞こえ、一息ごとに近づいてくる。
颯爽と走るおれを見たら早起きご苦労さまですって思うだろうな、すれ違うことがあったら朝の挨拶をしてやろうか。
おはようございます、じゃあ役不足かもしれないから、おはよう過ぎますって言ってみるのはどうだろう。
だってまだ満足に陽も昇っていないんだから。
おれのナイキがアスファルトを叩く規則的で未来的な足音、そこへ被さる新聞配達の不細工で前時代的なエグゾーストノイズ、アンビエントは朝の領主たるカラスたちのカアカアいっているあれだ。
しばらく走っていれば街も白んできて、団地の共用部に灯った電灯も消えるだろう。
その頃にはおれの呼吸はますます弾んでストライドも伸びてくる。
嫁もそろそろ目を覚ますかもしれない。
寝ぼけ眼をこすりながら隣に空っぽの枕を見て、あなたおはよう過ぎますわって思うだろうな。
クールダウンも含めておおよそ一時間ほどのランを終えれば、我が家に日経新聞も届いているだろう。
家を出るときとは対照的に、ガチャッと大きめの音を立てて玄関を開けてやると、嫁は恥じらいながら寝間着の裾をからげて玄関に飛び出てくる。
目の前には肩から湯気を上げ、ライム汁さながら爽やかな顔でご帰還の亭主さまだ。
あああなた、ご飯にしますか、それともお風呂?
いまだ寝ぼけている嫁は、袖に拳を潜らせて朝と夕とを取り違えているらしい。
そんなおっちょこちょいも気にならない、おれは彼女に朝刊を差し出してみる。
早起きをすると、係長から部長へ一気に昇進したような、大きな気持ちになれる。
どぶ板の下で汚濁していた気持ちにも余裕が生まれ、嫁を咎めるどころか深い懐で受け止める一級河川の悠然たる我が寛仁。
ホッとほころんだ嫁の瞳に、スウッシュのようなおれの口元が映っていることだろう。

寝床にうずくまり、頭の中からさっきまでの足音を払い落としていると、耳をつんざくような金属音が台所から斬り込んでくる。
今朝も中華鍋をレードルで打ち鳴らす嫁の狂騒がはじまる。
幸せな週末のひととき、明日から。
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by huck-a-gelmondo | 2011-08-18 03:58