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四の五の言う

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言い過ぎる、という問題。
小学生の頃、「いつ、どこで、だれが、なにを、どうした」ゲームをよくやった。
生徒によってバラバラに書かれた「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「どうした」は教卓に集められ、シャッフルされた後につなげて読まれる。
「放課後ー」「トイレで-」「先生がー」「鉛筆を-」「食べた」
となって、ゲラゲラゲラゲラ教室中が沸く。
意外な組み合わせがベタに落ち着くとみんなは安心して笑い出す。
あんまりシュルレアリスティックなものは駄目。
そして書き手の欲が出ても駄目。受けない。
十七文字が諧謔を生み出すのと同じ仕組みで、意外なものと意外なものの組み合わせが学校生活の常識を打ち破る。
ボードレールのコレスポンダンスとも同じ。
日常生活を構成している素朴なものだって、その関係に少し手を入れて編集するだけで、脳髄を喜ばせることができる。
そんなことを教えてくれるゲームのはずだった。

ある日、高萩少年は「どうした」チームに組み込まれ、頭を捻った。
そこで幼稚な欲を出した。
なるべく簡素にすべき「どうした」の一項目に、「フラダンスを踊りながらカレーライスを食べた」としてしまったのだ。
もちろん、書いた当初はそのルール違反に気づきもしない。純朴に読み上げられるのを心待ちにしていた。
「まさるくんがー」
すでにクスクス笑いが起こっている。
こういう個人責めはどう転んでも笑ってもらえるものだ。
「デパートでー」
もちろん笑いは積み上がっていき、まさるくん当人は心穏やかでない。
「野球をー」
少し笑い声は落ち着き、オチに向かって教室中の期待は募る。
そしてアトランダムに選ばれた最後の紙片は読まれた。
「フラダンスを踊りながらカレーライスを食べた」
それまでの和やかな雰囲気は凍てつき、「なにそれ?」ムードが教室に射す陽を暮れさせる。
救いは、誰が書いたかわからないことだった。

世の中に、言い過ぎてしまっていることは多い、と思う。
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by huck-a-gelmondo | 2011-09-16 22:36

算数

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ぼくとおまえはピタゴラスの定理で結ばれているから

ようやく言ってしまうと、少年は握りしめていた棒きれに気付く。
そして校庭の隅に習ったばかりの運命線が引かれていく。

二人の背景には、不完全な虹が架かっていればいい。
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by huck-a-gelmondo | 2011-09-05 21:55

ライブハウス

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薄暗い店内のあちこち、破れたシャツや敷き詰められた細かい花柄のパターン、太いストライプ、絞り染め、テラテラした下品なプリント、バラエティーに富んだ着衣の亡霊じみた一団は、無個性に向かって個性を帰納させているようだった。
まずそうな液体と氷で満たされたプラカップ、壁に殴り書かれた挑発的な横文字などが、宗教を演繹していかないように。

入り口の防音扉がときおり開き、すぐに閉じられた。
その度に重々しく不愉快な金属音がきしり渡る。

部屋の一角に灯りが注ぎ込まれてくると、気怠そうに四肢をぶらつかせた何人かの男たちが入場してくるのが見えた。
そこはステージらしく、まったくやりきれないといった風情で男たちは楽器を各々の身体へぶら下げる。

「あーこんちわーっす。今日は、つーか今晩は来てもらえてありがとうございまーす」
「ありがとざーす」
「おまえしゃべんのかよ」
「いや、しゃべるっしょ。つーかマイクあるし。だいたいおめえだけに任せらんねえみたいな」
「むちゃぶりかよ」
「まあそんな今日この頃なんですけども」

大蛇のようなダクトは天井を這い、無法地帯を監視する神話中の一幕を思わせた。
暗闇とそれ以外が境目も曖昧なまま、よどんだ空気に特別な意味を持たせている。
入り口の壁際に置かれたバケツはひっくり返されるのを待っている。
あらゆる仲間意識は引き裂かれようと、血液型占い師によって両端をつままれている。

「まあなんつーか、イベントやるって決まってから今日までは、正直すんげーしんどかったけど、喉元過ぎればっつーか、光陰レーザービームの如しだっけ?まあそんな感じであっという間でしたねー」
「てきとーに楽しんでくださいー。おれらもたいがいてきとーなんで、みたいな。ちがうか」
「そんなこんなで。まったりしちゃったとこで、一曲目いっちゃう?」
「はやくね?まあ今日のイベントはもうジャンルとか関係ないってゆーか、俺たちの見たいの集めちゃいました的な」
「そうそう、俺たちが一番楽しんでます的な」
「んー、まじ今日の出演者はみんな友達で、それぞれ最高で、つーかまじもう完全むちゃくちゃな感じなんすけど、こういうてきとーにゆるい感じもいま世の中に必要なんじゃないかってゆー、まあラブ&ピースじゃないけど、なんか俺たちなりのメッセージだと思ってもらえば」
「まああんま考えてないけどねー。じゃあトリの俺たち、はじめちゃいまーす」
「そうそう、最初の曲は俺たちのけっこう初期にやってた楽曲で-、イベントタイトルにもつかわせてもらったんですけど・・・
あ、そうだ一応。今日でてくれたみんなまじサンキュー。最後まで楽しんでいってください。じゃあ一曲目・・・」
「代走、ロックフェラー」

ドラムセットの奥に座っている大男が柏子木を三つ打ち鳴らし、それは曲はじまりのカウントというよりは火の用心を連想させた。
その瞬間、防音扉が派手な音を立てて開け放たれ、リュックを背負った男が駆け込んでくる。
入り口付近に居た目撃者は、佐川急便の商標を実写で見るようだった。
バケツは勢いよく蹴倒され、満たしていた液体をフロアーへこぼしていく。
リュックの男の残像から、葉巻の香ばしい臭いが立ち上がってきた。
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by huck-a-gelmondo | 2011-09-04 00:16